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イエローナイフのマリエルのおはなし。

イエローナイフで働いていたとき、「バノックを受け取るためにマリエルの家に行く」という仕事があった。バノックとはカナダ先住民が作る特製のパンのような食べ物のことで、マリエルはバノック作りの名人だ。


「ハロー」と言いながら彼女の家にあがる。年季の入ったパナソニックのステレオからカントリー・ミュージックが流れてくる。

キッチンのテーブルには、焼きたてのバノックが山盛りに積まれていた。マリエルはいつものように、ひとつひとつ数えながらゆっくりと袋に詰めていた。

この仕事のいいところは、ワークアワーが曖昧なところだ。「このくらいの時間にいけば焼き上がっているだろう」という時間に行っても、焼き上がっていないことはしばしばで、そういうときは待つしかない。つまり仕事をサボれるというわけだ。

そんなとき、マリエルは先住民の不思議なはなしを聞かせてくれる。ある日マリエルは、彼女がまだ10代の少女だっだときのはなしを聞かせてくれた。


ローング ローング タイム アゴウ

マリエルの話はいつもこの言葉からはじまる。

その頃わたしたち家族は移動生活をしていたの。といっても、定住する街はあったし、学校もあった。でも街とキャンプを行き来する暮らしはまだ普通のことだったしカナダ政府のつくった学校には行きたくなかった。だって私たちの言葉(デネ語)を話すことを禁じられていたし、それに・・・まあ、この話はいいわね(笑)

キャンプの生活は楽しかったのよ、お母さんは色々なことをわたしに教えてくれたわ。私たちはなんでも自然からつくることができたのよ。ティーピー(デネ族がつかう移動式テント)だって木と動物の皮でつくれるし、お湯だって鉄の鍋がなくても沸かせるのよ。くりぬいた木と焼いた石でね。肉はお父さんが獲ってきてくれたし、魚ならわたしたちも獲るの。それを調理したり干して保存したり。野菜はないけどベリーがたくさん採れるから大丈夫。

わたしは自然のなかにいることが大好きなの。あのころ、わたしには日課があってね、家事を終らせるとすぐに森に向かったわ。タカに会いに行っていたの。毎日のように顔を合わせるから、彼女はわたしのことを知っていたし、関係はとてもよかったわ。

雨の日でも彼女に会いに行ったの、でもその日は本当に雨が強くて、たちまち嵐になってしまって。もう途方に暮れちゃってね、寒くて震えてしまって、つらくてねえ。そんなときにね、うずくまっているわたしをタカの大きな羽が覆ったの。彼女の身体はとってもあたたかかったわ。彼女は嵐が去るまでわたしと一緒にいてくれたの。信じられないでしょう?

それからも彼女とわたしの友情は続いたの。彼女が2羽の子どもを産んだ時だけ、わたしは彼女に会うことをやめたわ。だってそうでしょう?子育ての邪魔はしちゃいけないの。そういうものなのよ。

ヒナがじゅぶんに育ったとき、彼女は子どもをわたしに紹介してくれたわ。この写真、彼女の子どもとわたしが写っているでしょう?街にきた写真家に撮ってもらったのよ。いい写真でしょう?彼女は写っていないのかって?子どもが一人前になったらね、親は去るものなの。彼女の子どもたちも親になったときに去っていったわ。

それから何年たったかしら。10年以上後のことよ。わたしたちは移動生活をしなくなって、森にはいることは少なくなってね。街からぼんやりと空を眺めていると2羽のタカが飛んでいたわ。わたしはすぐに、あの子どもだちだってわかったの。もしかしたら孫かもしれないわね。わたしの友達のタカが死んでしまったのよ。それを伝えにきてくれたの。

こういう話、信じることができるかしら?わたしたちはね、動物と通じ合うことができるのよ。


先日、マリエルが亡くなったという知らせを聞いた。デネ族の長老として、先住民の文化を伝えてきた人が逝ってしまった。お世話になりました。素敵なおはなしをありがとう。どうか、安らかに。

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